いな着物をあたいにくれて、晩にはいっしょにねるのだよ。」
 こういって、その女の子は、もういちど、母親の耳をしたたかにかみました。それで、ばあさんはとびあがって、ぐるぐるまわりしました。おいはぎどもは、みんなわらって、
「見ろ、ばばあが、がきといっしょにおどっているからよ。」と、いいました。
「馬車の中へはいってみようや。」と、おいはぎのこむすめはいいました。
 このむすめは、わんぱくにそだって、おまけにごうじょうっぱりでしたから、なんでもしたいとおもうことをしなければ、気がすみませんでした。それで、ゲルダとふたり馬車にのりこんで、きりかぶや、石のでている上を通って、林のおくへ、ふかくはいっていきました。おいはぎのこむすめは、ちょうどゲルダぐらいの大きさでしたが、ずっと、きつそうで、肩つきががっしりしていました。どす黒《ぐろ》いはだをして、その目はまっ黒で、なんだかかなしそうに見えました。女の子は、ゲルダのこしのまわりに手をかけて、
「あたい、おまえとけんかしないうちは、あんなやつらに、おまえをころさせやしないことよ。おまえはどこかの王女じゃなくて。」と、いいました。
「いいえ、わたしは王女ではありません。」と、ゲルダはこたえて、いままでにあったできごとや、じぶんがどんなに、すきなカイちゃんのことを思っているか、ということなぞを話しました。
 おいはぎのむすめは、しげしげとゲルダを見て、かるくうなずきながら、
「あたいは、おまえとけんかしたって、あのやつらに、おまえをころさせやしないよ。そんなくらいなら、あたい、じぶんでおまえをころしてしまうわ。」と、いいました。
 それからむすめは、ゲルダの目をふいてやり、両手をうつくしいマッフにつけてみましたが、それはたいへん、ふっくりして、やわらかでした。
 さあ、馬車はとまりました。そこはおいはぎのこもる、お城のひろ庭でした。その山塞《さんさい》は、上から下までひびだらけでした。そのずれたわれ目から、大がらす小がらすがとびまわっていました。大きなブルドッグが、あいてかまわず、にんげんでもくってしまいそうなようすで、高くとびあがりました。でも、けっしてほえませんでした。ほえることはとめられてあったからです。
 大きな、煤《すす》けたひろまには、煙がもうもうしていて、たき火が、赤あかと石だたみのゆか上でもえていました。煙はてんじ
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