のこっている人たちのなみだでしめっているはかばのことをうたいました。きいているうち、死神はふと、じぶんの庭がみたくなったものですから、まどのところから、白いつめたい霧《きり》になって、ふわりふわり出ていきました。
「ありがとう、ありがとう。」と、皇帝はおっしゃいました。「天国のことりよ、わたしはよくおまえをおぼえているぞ。わたしはおまえを、この国からおいだしてしまったが、それでもおまえは、わたしのねどこから、いやなつみのまぼろしを、歌でけしてくれた。わたしのしんぞうに、とりついた死神を、おいはらってくれた。そのほうびには、なにをあげたものであろうか。」
「そのごほうびなら、もういただいております。わたくしがはじめて、ごぜんでうたいましたとき、陛下には、なみだをおながしになりました。わたくしは、けっしてあれをわすれはいたしません。あのおなみだこそ、歌をうたうものの、こころをよろこばす、宝石でございます。なにはとにかく、おやすみあそばせ。そうして、またおげんきに、お丈夫《じょうぶ》におなりなさいまし。なにかひとつ、うたってさしあげましょう。」
そこで、さよなきどりは、うたいだしました。――それをききながら、皇帝は、こころもちよく、ぐっすりと、おやすみになりました。まあ、どんなにそのねむりは、やすらかに、こころのやすまる力をもつものでしたろう。
皇帝はまた、げんきがでて、すっかりご丈夫になって、目をおさましになったとき、お日さまは、まどのところから、さしこんでいました。おそばづきの人たちは、陛下がおかくれになったこととおもって、ひとりもまだ、かえってきていませんでした。ただ、さよなきどりだけは、やはりおそばにつきそって、歌をうたっていました。
「おまえは、いつもわたしのそばにいてくれなければいけない。」と、皇帝はおっしゃいました。「おまえのすきなときだけ、うたってくれればいいぞ。こんなさいくどりなどは、こなごなに、たたきこわしてしまおう。」
「そんなことを、なすってはいけません。」と、さよなきどりはいいました。「そのことりも、ずいぶんながらくおやくにたちました。いままでどおりに、おいておやりなさいまし。わたくしは、御殿の中に、巣をつくって、すむわけには、まいりませんが、わたくしがきたいとおもうとき、いつでもこさせていただきましょう。そうしますと、わたくしは晩になりまし
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