かたわな手をさしだしました。なにしろこの宿屋のおかみさんからして、はだしでくしを入れないぼやぼやのあたまに、よごれくさったブルーズ一枚でお客を迎えました。戸はひもでくくりつけてありました。へやのゆかは煉瓦《れんが》が半分くずれた上を掘りかえしたようなていさいでした。こうもりが天井《てんじょう》の下をとびまわって、へやのなかから、むっとくさいにおいがしました――。
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*旦那さま、かわいそうなものでございます。
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「そうだ、いっそ食卓はうまやのなかにもちだすがいい。」と、旅人のひとりがいいました。「まだしもあそこなら息ができそうだ。」
窓はあけはなされました。そうすればすこしはすずしい風がはいってくるかとおもったのです。ところが風よりももっとす早く、かったい[#「かったい」に傍点]ぼうの手がでて来て、相変らず「ミゼラビリ・エチェレンツア」と鼻をならしつづけました。壁のうえにはたくさん楽書《らくがき》がしてありましたが、その半分は*「ベルラ・イタリア」にはんたいなことばばかりでした。
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*イタリアよいとこ。
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