は日曜の朝で、いいお天気でした。ひとつ、フレデリクスベルグへでもぶらぶらでてみるかな、とかんがえて、そちらに足をむけました。
 さて、この青年ぐらい、おとなしい、堅人《かたじん》はめったにありません。すこしばかりの散歩を、この人がするのは、さんせいですよ。ながく腰をかけ通していたあとで、きっとからだにいいでしょう。はじめのうち、この人もただぽかんとしてあるいていました。そこで、うわおいぐつも魔法をつかう機会がありませんでした。
 公園の並木道《なみきみち》にはいると、書記はふとお友だちの、若い詩人にであいました。詩人は、あしたから旅にでかけるところだと話しました。
「じゃあ、もうでかけるのかい。」と、書記はうらやましそうにいいました。「なんて幸福な自由な身の上だろう。いつどこへでも、好きなところへとんでいけるのだ。われわれと来ては、足にくさりをつけられているのだからね。」
「だが、そのくさりはパンの木にゆいつけてあるのだろう。」と、詩人はいいました。「そのかわりくらしの心配はいらないのだ。年をとれば、恩給がもらえるしな。」
「やはりなんといっても、きみのほうがいいくらしをしているよ。」と、書記がいいました。「うちにすわって詩を書いているというのは、楽しみにちがいない。それで世間からはもてはやされる。おれはおれだでやっていける。まあ、きみ、いちどためしにやってみたまえ。こまごました役所のしごとに首をつっこんでいるということが、どんなことだかわかるから。」
 詩人はあたまをふりました。書記も同様にあたまをふりました。てんでにじぶんじぶんの意見をいい張って、そのままふたりは別れました。
「どうも詩人というものはきみょうななかまだな。」と、書記はおもいました。「わたしもああいう人間の心持になってみたいものだ。じぶんで詩人になってみたいものだ。わたしなら、むろん、あの連中のように泣言をならべはしないぞ……ああ、詩人にとってなんてすばらしい春だろう。あんなにも空気は澄み、雲はあくまでうつくしい。わか葉の緑にかおりただよう。そうだ、もうなん年にも、このしゅんかんのような気持をわたしは知らなかった。」
 これで、もうこの書記は、さっそく、詩人になっていたことがわかります。べつだん目につくほどのことはありません。いったい詩人とほかの人間とでは、うまれつきからまるでちがっているようにか
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