四 一大事 朗読会の番組 世にもめずらしい旅

[#挿絵(fig42380_04.png)入る]
 コペンハーゲンに生まれたものなら、たれでもその町のフレデリク病院の入口がどんなようすか知っているはずです。でもこの話を読む人のなかには、コペンハーゲン生まれでない人もあるでしょうから、まずそれについて、かんたんなお話をしておかなくてはなりますまい。
 さて、その病院と往来とのあいだにはかなり高いさく[#「さく」に傍点]があって、ふとい鉄の棒が、まあ、ずいぶんやせこけた志願助手ででもあったらむりにもぬけられそうな、というくらいの間《ま》をおいて並んでいました。それで、ここからぬけてちょっとしたそとの用事がたせるというわけでした。ただからだのなかで、いちばんむずかしいのはあたまでした。そこでよくあるとおり、ここでも小あたまがなによりのしあわせということになるのでした。まずこのくらいで、前口上はたくさんでしょう。
 さて、若いひとりの志願助手がありました。からだのことだけでいうと、大あたまの男でしたが、これが、ちょうどその晩、宿直《しゅくちょく》に当っていました。雨もざんざん降っていました。しかし、このふたつのさわりにはかまわず、この人はぜひそとへでる用がありました。それもほんの十五分ばかりのことだ、門番にたのんで門をあけてもらうまでもなかろう、ついさく[#「さく」に傍点]をくぐってもでられそうだからとおもいました。ふとみると夜番のおいていったうわおいぐつがそこにありました。これが幸福のうわおいぐつであろうとはしりませんでした。こういう雨降りの日には、くっきょうなものがあったとおもって、それをくつの上にはきました。ところで、はたしてさく[#「さく」に傍点]はくぐることができるものかどうか、今までは、ついそれをためしてみたことがないのです、そこでさく[#「さく」に傍点]のまえにたちました、
「どうかあたまがそとにでますように。」と、助手はいいました。するとたちまち、いったいずいぶんのさいづちあたまなのが、わけなくすっぽりでました。そのくらい、うわぐつは心えていました。ところで、こんどはからだをださなければならないのに、そこでぐっとつまってしまいました。
「こりゃ肥りすぎているわい。どうもあたまが一番始末がわるそうだとおもったのだが。でるのはだめか。」と、助手はいいました。
 
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