Sのなかでどのくらい不愉快に感じているか、きみたちにはそうぞうもつかんだろう。ぜんたい、これは晩をすごすてきとうな方法でありましょうか。家のなかをきれいに片づけておくほうが、よっぽど気がきいているのではないですか。諸君は、それぞれじぶんたちの場所にかえったらいいでしょう。その上で、ぼくが、あらためて司会《しかい》をしよう。すこしはかわったものになるだろう。」
「よし、みんなで、さわごうよ。」と、一同がいいました。
そのとき、ふと戸があきました。このうちの女中がはいって来たのです。それでみんな[#「みんな」は底本では「みん」]はきゅうにおとなしくなって、がたりともさせなくなりました。でも、おなべのなかまには、ひとりだって、おもしろいあそびをしらないものはありませんでしたし、じぶんたちがどんなになにかができて、どんなにえらいか、とおもわないものはありませんでした。そこで、
「もちろん、おれがやるつもりになれば、きっとずいぶんおもしろい晩にしてみせるのだがなあ。」と、おたがいにかんがえていました。
女中は、マッチをつまんで、火をすりました。――おや、しゅッと音がしたとおもうと、ぱっときもちよくもえ上がったではありませんか。
「どうだ、みんなみろよ。やっぱり、おれはいちばんえらいのだ。よく光るなあ。なんというあかるさだ――」と、こうマッチがおもううち、燃えきってしまいました。』
「まあ、おもしろいお話でございましたこと。」と、そのとき、お妃《きさき》さまがおっしゃいました。「なんですか、こう、台所のマッチのところへ、たましいがはこばれて行くようにおもいました。それではおまえにむすめはあげることにしますよ。」
「うん、それがいいよ。」と、王さまもおっしゃいました。「それでは、おまえ、むすめは月曜日にもらうことにしたらよかろう。」
まず、こんな[#「こんな」は底本では「こん」]わけで、おふたりとももう、うちのものになったつもりで、むすこを、おまえとおよびになりました。
これで、いよいよご婚礼ときまりました。そのまえの晩は、町じゅうに、おいわいのイリュミネーションがつきました。ビスケットやケーキが、人民たちのなかにふんだんにまかれるし、町の少年たちは、往来にあつまって、ばんざいをさけんだり、指をくちびるにあてて、口笛をふいたりしました。なにしろ、すばらしいけいきでした。
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