だとは思ひつつ黙つてゐると、いよいよ図に乗る汚さであつた。どの芸人も客だから聞かないふりをするか、ヘツヘツとお世辞笑ひをしてゐた。そこへ可楽が出たものだ。彼はあの黒い渋い表情でじろりと弥次の出るたびに睨んでゐたが、たうとう
「――お前さん、少しうるさいね。そんなにしやべりたけりや、私の代りにここへ上つてやんなよ」
 と、いつてしまつた。そいつは怒つたが、ゐたたまらずに帰つて行つた。かういふ芸人の態度はまことに下らない。だが、私はそれが欲しいのだ。



底本:「日本の名随筆 別巻29 落語」作品社
   1993(平成5)年7月25日第1刷発行
   1995(平成7)年3月30日第2刷発行
底本の親本:「武田麟太郎全集 第14巻」六興出版部
   1948(昭和23)年8月
入力:加藤恭子
校正:菅野朋子
2000年11月20日公開
2005年12月31日修正
青空文庫作成ファイル:
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