大凶の籤
武田麟太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)豪奢《ごうしや》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一切|放擲《ほうてき》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)汗や垢のしみ[#「しみ」に傍点]
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 どんな粗末なものでも、仕立下しの着物で町を歩いてゐて、時ならぬ雨に出逢ふ位、はかないばかり憂欝なものはない。いや、私の神経質は、ちよつと汗をかくのにも、ざらざらと砂埃を含んだ風に吹きつけられるのにも、あるひはまた乗物や他家の座席の不潔さにも、やり切れない嫌悪の情を起させるほどである。ある夏の日、私は浅草に近い貧民窟で、――そこで知合になつた男について、物語らうとするのがこの小説であるが、――狭つ苦しい裏町のトタン屋根の傾いた一軒で、半裸体の男が、どう見ても芸者の出の着物らしい華美で豪奢《ごうしや》なものを縫つてゐるのを目撃してぞつとしたことがある。その座敷着の品質や柄模様を詳しく述べるだけ私に和服の知識がないのは残念だが、とにかく、裾を引いた艶やかな女の肢体や脂粉の香さへも一瞬に聯想される不思議な色気を持
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