んでせう、この人は、……もしも京都から伯父さんが死んだつて電報でも来たら、どうするの」
かつ子はそんなことを云つてたつけ、自分は笑つて蒲団にもぐり込んだのだ。
「――ほんまにお医者を呼ばうぜな、これぢやらちがあかん」
老母は、実は自分が給料を持つてゐるかどうかがたづねたかつたのだ。医者にかこつけて、財布を見たかつたのだ。
「――いいんだよ、どうせ死ぬんだから」
自分はさう云つて彼女を無理に追払つた。伯父が死んだと電報の来たのは、それから二時間ほど経つてからである。
「――どうする、どうする、誰も葬式に行けるもんがない、汽車賃もない」
母は小さな仏壇に燈《あか》りを入れてやかましく喚いてゐる。
行つては先方が迷惑すると云つてやらうかと思つたが、自分は、黙つて蒲団をたぐりあげた。
(昭和十一年一月)
底本:「現代文学大系44」筑摩書房
入力:山根鋭二
校正:伊藤時也
1999年10月19日公開
青空文庫作成ファイル:
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