すると彼は、端然と背を延して坐り、凝ツと物々しく前を睨み、ヤツと云つて、眼を突いたり、鼻をつまんで上向いたり、耳を釣つて、痛さうに顔を顰めて延び上つたり、口唇をつねつたり、――また、ヤツと云つて胸を叩いたりしてゐるのであつた、夢中で――。
これを見ると細君は、突然ゾツとして、子供の夜着の中に顔を埋めた。
(やつぱり自分の気の迷ひではなかつたのだ、あの人は到々気が違つてしまつたのだ。)
細君は、一途に斯う思ふと、全身が震へ、と同時に激しく涙が滾れ出た。[#地から1字上げ](十四年四月)
底本:「牧野信一全集第二巻」筑摩書房
2002(平成14)年3月24日初版第1刷
底本の親本:「新潮 第四十二巻第五号」新潮社
1925(大正14)年5月1日発行
初出:「新潮 第四十二巻第五号」新潮社
1925(大正14)年5月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2010年5月23日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http:/
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