散らして魚のやうに飛び回つてゐるので、何れが誰れやら男達の眼には一向区別もつかなかつた。いつか村井も其処に現れて滝本の隣りに凭りかゝつてゐたが、誰もそれに気づかなかつたのか、それとも綺麗な風景に見惚れてゐるためか、飽くまでも無言のまゝ、夢見るやうな眼をそろへて光りの渦巻きを見降してゐた。
――――――――――
これが「南風譜」――(田園篇)の終局の場面である。
間もなく村井の「南方の騎士」が脱稿され、竹下の新たに取りかゝつた「馬と娘」と題する五十号大の製作が完成して、翻訳の仕事を持つた滝本と、新しい就職口を求める森武一と、そして八重とローラと百合子と――秋の東京へ、予定の通り出発して、理想の共和生活にとりかゝつたといふこと、竹下の「馬と娘」がシーズンの人気を一身に集めたといふ愉快なエピローグを附け加へて置かう。
底本:「牧野信一全集第四巻」筑摩書房
2002(平成14)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「婦人サロン」文藝春秋社
1931(昭和6)年5月〜10月
初出:「婦人サロン」文藝春秋社
1931(昭和6)年5月〜10月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2010年1月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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