やないか、この頃は別の言葉になつてゐるかも知れないが。學生時分に經驗があるかね?」
――隱岐は、それは自分が凡ゆる點で彼女に不滿足ばかりを與へてゐるので、自然と變質的な傾向に走つたのであらう――と考へ、殊に田舍に移つてからの自分をいろいろと振り返つて見たりした。
「ほんとうは、あたし畫なんか描きたくはなかつたのよ。だましちやつたのさ。」
「……愉快だね。」
「いつまで見てゐても飽きないわ。それよりも、このごろぢや、嫉妬を覺えて、苦しくなつたりするわ。彼女の結婚を考へると、凝つとしてゐられなくなつたりするのさ。……だつて、まあ、あの子の、體の綺麗さ加滅[#「加滅」はママ]と云つたら、それあもう、何とも彼とも、云ひやうもない――ふるひつかずには居られないほどの……」
「ふるひついたことは、あるか?」
「あら、眼をまるくしてら……でも、あたし、いろいろ考へて、いつかのお前のことを無理もないと思つてるわ。」
「……馬鹿だつた!」
「あたしだつて、それより激しい氣持になることがあるんだもの。」
(以下の會話數行省略する。)
「顏はそれほどの美人といふほどのこともないけど、ヘツプバアン見たいな口
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