痴日
牧野信一

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)端《はし》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)寢|風呂《バス》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、底本の誤記など
   (数字は、底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+造(しんにょうの点は二つ、「告」の縦棒は下に突き抜ける)」、129−11]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぼそ/\と
−−

        一
 頭の惡いときには、むしろ極めて難解な文字ばかりが羅列された古典的な哲學書の上に眼を曝すに如くはない――隱岐はいつも左う胸一杯に力んで、決して自分の部屋から外へ現れなかつた。活字の細いレクラム本に吸ひつくやうに覆ひ被さつたまゝ、終日机から離れなかつた。だが、やがて運ばれる晩飯を下宿人のやうにひとりでぼそ/\としたゝめてから、何か吻つとしてラムプを眺める時分になると、急にあたりが寒々として來て、暖い部屋が慕はしくなつた。
「しかし……」
 彼は激しく頭を振つて、餘程ちゆうちよするのであつたが、ふらふらと渡り廓下[#「廓下
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