心象風景
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)土塊《つちくれ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)そのまゝで/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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一
槌で打たなければ、切り崩せない堅さの土塊《つちくれ》であつた。――岡は、板の間に胡坐をして、傍らの椅子に正面を切つて腰を掛けてゐる私の姿を見あげながら、一握りの分量宛に土塊を砕きとつて水に浸し、適度に水分を含んだ塊を順次に取り出しては菓子つくりのやうにこねるのであつた。
岡の額には汗が滲んだ。彼の労働の状態を眺めてゐると、私も全身に熱を感じた。私達は朝の七時から仕事に着手して、午迄一言の言葉もとり交さなかつた。――極寒の日であつた。
岡が自分の手で建築した掘立小屋のアトリヱである。四囲の壁は、壁を塗るべき下拵へだけが出来てゐて、未だ壁は塗つてなか
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