「そいつは、例の工夫だ、サンタクロースの衣裳にならつて、カーテンを応用するなんて何んなものだい、丸木小屋気分がいよ/\濃厚となつて面白いではないか。」
「スタツキングとか、スカートとかの問題になるとお前は、仲々騎士らしいことを云ふが、情熱の眼を不図輝やかしたりしないように注意したまはれよ! Hurrah!」
私は、一本参らせられたりしました。そんな、こんな冗談を交しながら大方の飾りつけを終つた時分になつて、フロラが、
「mistletoe がない!」
と気づきました。
二
で私は早速、
「こんな森の中だもの、何処にでもあるに違ひないよ。……僕が一走り行つて探して来るのは容易だが、愉快な形式を尊重して一枝の mistletoe を、二人がゝりで索めに行くといふ古風な夢を実現して見ることにしようではないか。」
と申し出て、フロラと手を携へて森の中へ出かけたところが、梢ばかりを見あげながら終ひには首筋のあたりが変になつてしまつた程熱心に探し回つても、一向それらしいものが見当らぬのです。
「ヤドリ木御存じ?」
私は出遇ふ人毎に訊ねましたが、皆な同じやうにぼんやりして、知らぬ/\、名前も聞いたことがないと答へるばかりです。
「あれは、寄生する親木の類ひが特別な種類ではなかつたかしら。植物学《ボタニー》の書物を見ておくべきだつた!」
私がついそんな嘆息を洩すと、フロラも思はず眉を顰めて、
「こんなに歩き回らねばならなかつたのなら、妾は橇小屋から馬を借り出して来たのに。」
といふ不満など述べて、暗に私の無責任を詰るのです。無理もありません。ほんの五分か十分の片手間と云つて誘ひ出したのに私達は既に二時間あまりも完全に上ばかり眺めて、尋ね回つたのでしたから。
私は無論、手をのばせばとゞくであらうほどの高さの幹を目あてにしてゐましたところが、フロラは、
「お前は樹の幹をよぢ登ることは出来るかしら?」と質問しました。
「余り太い幹でなければ……」
私は、可細い喉の底で唸りました。私は少年の頃、果物をとる目的で高い枝を伝ふてゐた時、突然枝が折れて地上に転落し左腕を折つた経験を持つて以来、木登りと聞くと迷信的な怖れを抱いて、忽ち脚がすくんでしまふのです。
私はギツクリとして眼を白黒させてゐた途端に、ずつと先の方へ踏み入つてゐたフロラが、
「ハロー、ハロー!」
と気たゝましい歓喜の声を挙げました。そして、恰で逃げてしまふ生物を見出したかのやうに慌てゝ、
「ハリヤツプ/\! 見事な一株の、幸福の木を発見した。」
と叫びました、森閑とした森に、その声が真に山彦の精に似て鳴り渡りました。私が、驚いて駆け寄るとフロラは、
「おゝ、妾は終に幸ひを見出した。」
と、とても仰山な声を挙げながら、悦びに亢奮して私の胸に抱きつきました。
で、私がフロラの指差す上を眺めると、二抱へもある程の樅の大木で、成程、遥かにそよいでゐる寄生木のある枝までは、目測凡そ二丈も昇らなければなりません。――私の両脚は全々感覚を失ひました。
「おゝ、勇敢なる騎士よ。」
とフロラは真面目に叫びました。――「樵夫の家から縄梯子を借りてお出で。妾はお前の手が幸ひの木枝に触れるのを注意深く視守るであらう。お前が剪りとつて来る幸福の枝に妾は、二人の永久の幸ひを祈る最初の接吻を捧げるであらう。妾の勇敢な、より好き半身よ。ハリヤツプ/\。……光りを拾ふための梯子を……」
私は夢中で縄梯子を運んで来ると、つぎ竿の先で辛うじて梯子の一端を「幸福を宿す木」が私達のために緑の翼を拡げてゐる樅の枝に懸けることが出来ました。
「二人で昇つて行つても安全であらうから、妾も、妾の頼る者の後に続いて、あの枝に腰をかけて共々に(祝福された星の歌)を歌はうではないか。」
宙を腰木の枝からブランコになつて垂れてゐる梯子を、さすりながらフロラは切りと私の登攀を促します。
「では――」
と私は、決心の瞑目をして云ひ切りました。――「おゝ、歌はう、幸福の枝を抱へたお前の肩に凭つて私達が橇道を降つて行く帰りの、橇の上で歌はう、未だ、あの幸福の枝は完全に吾々の手に帰したとは云へぬであるから、――一刻の猶予を与へてお呉れ。」
その一刻の猶予が、真に私にとつては天国と地獄の岐れ道とも思はれるのでした。私は梯子の中途で、脚を滑らせさうな危惧にばかり襲はれてなりませんでした。単なる幹を伝ふよりも危い、ブラ/\とする縄梯子は全く私にとつて初めての冒険であります。
「よしツ!」
と私は覚悟して、一振りの山刀を腰のバンドにたばさむと、神妙な脚どりで一段一段と縄梯子を昇りはぢめました。
目が眩む――と思ふと、それは何も迷信的な臆病のみがさせる業ではなくて、橇に乗つた帰り途の想像が、私の魂を恍惚の吹雪で
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