色に鹿爪らしい調子を含めて、
「――今年は神前には供へられねど、御身の誕生の印には赤飯をたいてはるかに健康を祝し申し候 英雄《ヒデヲ》の三歳の祝ひは忌服あけに延すなるべし。来る年の幸福を祈り喜びごと万づ祝ひのばさん。」と、たつた今しがた受取つた母親の手紙の一節を、朗々たる節をつけて読みあげたのである。前日、十二日、私の誕生日の朝、母が出した手紙である。私は、
「めでたし、めでたし――だ。」などゝ云ひながらフラフラと立ちあがると、玩具の蓄音機にキヤラバンのレコードを周子に懸けさせて、Hと共に、節面白く壮快滑達なダンスを演じたのである。



底本:「牧野信一全集第二巻」筑摩書房
   2002(平成14)年3月24日初版第1刷
底本の親本:「日本小説集 第一集」小説家協会編、新潮社
   1925(大正14)年6月6日発行
初出:「新潮 第四十二巻第一号」新潮社
   1925(大正14)年1月1日発行
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2010年1月17日作成
2010年5月23日修正
青空文庫作成ファイル:
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