彼は――水の中で眼をぱつちりと視開いた。
 水の底が青白く、小石が真珠のやうに光つて見えた。――やらうと思へば俺だつて快活な業が出来るさ、家に居るのは一層鬱陶しいから明日も矢張りまた出かけて来ようかな――彼はさう思つた。
 もう好からうと思つて彼は、首を振つて水の上に顔を現した。――木村たちは、到底彼には行けないずつと遠くの沖を合唱しながら泳いでゐた。振り返つて見ると、彼は波元から二間も先へ進んではゐなかつた。
[#地から1字上げ](大正十三年三月)



底本:「牧野信一全集第二巻」筑摩書房
   2002(平成14)年3月24日初版第1刷
底本の親本:「父を売る子」新潮社
   1924(大正13)年8月6日発行
初出:「サンデー毎日 第三巻第二十九号」大阪毎日新聞社
   1924(大正13)年7月1日発行
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2010年5月23日作成
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