のやうに見事に左右に飛び散つた。そして、地に身を伏せるかのやうにこゞんで徐々と這ひまはつてゐた。
「この先着者には、何んな感謝を示すべきが当然だらう?」
私は、何時の間にか云ひやうのない憂鬱――見たいな思ひに襲はれながら、そんなことを云つたが、チル子も妻も、返事をするのも忘れて、ぼんやりと不思議な光景に見惚れてゐた。二人とも袋からとり出したサンドヰツチを指先につまんだまゝ空腹も忘れたかのやうであつた。
不図私が眼を伏せてチル子の脚もとを見ると、生かしたまゝ持ち帰る筈の小鮒が何尾ともなく元気好く小さなバケツの中に泳いでゐた。
これは私達が村に帰つてから未だ二日日の出来事であるが、この分では、明日から何んな凄じい芝居がはじまるか? と思ふと私は一日も早く帰京すべきか、或ひは寧ろ滞在すべきか? などゝ思ひながら、この中途半端な文章を、ロータスの囲炉裡の傍で、擱くのである。
底本:「牧野信一全集第四巻」筑摩書房
2002(平成14)年6月20日初版第1刷発行
底本の親本:「河北新報」河北新報社
1931(昭和6)年6月24日、26日
初出:「河北新報」河北新報社
1931(昭和6)年6月24日、26日
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2010年1月17日作成
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