度の秋の踊りまでには出演者は皆な仮面《めん》を、そろえようということになっているんだから、私たちがいなくなったら台なしでしょうがな。それに近頃また日増《ひまし》に註文が増えるというのは、何も連中は体裁をつくる仕儀ばかりじゃなくって、脛に傷持つ方々が意外の数だというんです。仮面《めん》さえかむっていれば担がれる心配がないというところから……」
「でも、いつかのJさんの場合などがあるところを見ると、何も踊りの晩ばかりが――」
「いい、あれは、ただの喧嘩だったんですってさ。担ぐのは、踊りの晩に限られたしきたりなんで。」
「それなら何も僕はあの時のことを非難されるには当らなかったろうに。」
そうも考えられたが、村政上のことで村人の仇敵《きゅうてき》になっているJ氏だったので思わぬとばっちりが私にも降りかかったのであろう、と思われるだけだった。
さっきから御面師は、頻りと私を外へ誘いたがるのだが、私はどうも闇が怖《こわ》くてたじろいでいたところ、そんな風にはなされてみると、たとえ自分がブラック・リストの人物とされていようとも、当分は大丈夫だという自信も湧いた。それに踊りの頃になったにしろ、そ
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