を試みた。――徐《おもむろ》に、彼女の乗つたブランコは、巨大な時計の振子のやうに、砂を払つてゆるやかに空《くう》を蹴つた。やがて振子は半円に達するほどの弧を描いた。風笛《サイレン》のやうに凄じい音もたてかねまじき勢ひで程好い重味を持つた振子は、鮮かに地をかすめたかと見ると、忽ちまり[#「まり」に傍点]のやうに中空に浮びあがつた。眺めてゐても、どうして次第に波動を高め、そしてあの大弾動を保つてゐるのか、別段彼女の姿勢には努力の影も見えず悠然と構へてゐるのに、あまりに呼吸が巧なので私にはその要領さへ見定めることが出来なかつた。――ある時は彼女の顔色は、奈落の底に突進する人のやうに刹那的の眼を見張つたかと思ふと、忽ち翻つて、幸福の殿堂に一散に飛び込む者のやうな晴々しい眼を輝かせた。さうかと思ふと、天日を仰いで浩々然と胸をひろげた。
私は見物してゐるだけでも足のうらがムズ/\として堪らなかつた。――「今度は英ちやん乗つて御覧!」と彼女は、約束を裏切つていひ出した。「振れなければ、あたしがおしてやるから!」
私は、竦然として、物もいはずにその場を逃げ出したのであるが、樹《こ》の間《ま》を一寸のあひだグルグルまはつただけで直ぐにつかまへられてしまつた。
彼女の唇は神経的にふるへてゐた。
「チヨツ/\/\――あゝ、焦れツたい。」と彼女は病的に鋭く叫んで、私の腕を抜けるほど引ツ張つた。
そして、私にはあんな他人の心持はわからない、ヒステリックとでもいふべきか? 眼尻を釣りあげて、何としても臆病な私には刃向《はむか》ふことの出来ない例の調子で、
「どんなひどい目に合すかも知れないぞツ!」と、まつたく絹を裂くやうな声で噛みころした。――殺されるかも知れない! ほんとうに私はそんな気がした。
彼女は、己れの五体を地面に叩きつけずにはをられない、無茶に――発作的にそんな非常識な癇癪に燃えたつてゐた。
私は、唖然として、引かれるまゝにブランコの上に立たされた。
「何をぼんやりしてゐるんだよ。さつきからあたしは、お前が馬鹿面をして折角の運動を見物なんてしてゐるんで腹がたつて仕方がなかつたんだ、何んにもなりあしない! あゝ、気持が悪い。」――「あたしのやつた通りな大振りをしなければ、どうしても我慢が出来ないぞ。……突き飛ばすぞ!」
それでも私が、ぼんやりしてゐると、彼女はいきなり綱
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