ことができぬ。かくの如く凡て物は対立に由って成立するというならば、その根柢には必ず統一的或者が潜んでいるのである。
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 この統一的或者が物体現象ではこれを外界に存する物力となし、精神現象ではこれを意識の統一力に帰するのであるが、前にいったように、物体現象といい精神現象というも純粋経験の上においては同一であるから、この二種の統一作用は元来、同一種に属すべきものである。我々の思惟意志の根柢における統一力と宇宙現象の根柢における統一力とは直《ただち》に同一である、たとえば我々の論理、数学の法則は直に宇宙現象がこれに由りて成立しうる原則である。
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 実在の成立には、右にいったようにその根柢において統一というものが必要であると共に、相互の反対むしろ矛盾ということが必要である。ヘラクレイトスが争《あらそい》は万物の父といったように、実在は矛盾に由って成立するのである、赤き物は赤からざる色に対し、働く者はこれをうける者に対して成立するのである。この矛盾が消滅すると共に実在も消え失せてしまう。元来この矛盾と統一とは同一の事柄を両方面より見たものにすぎない、統一があるから矛盾があり、矛盾があるから統一がある。たとえば白と黒とのように凡ての点において共通であって、ただ一点において異なっている者が互に最も反対となる、これに反し徳と三角というように明了の反対なき者はまた明了なる統一もない。最も有力なる実在は種々の矛盾を最も能く調和統一した者である。
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 統一する者と統一せらるる者とを別々に考えるのは抽象的思惟に由るので、具体的実在にてはこの二つの者を離すことはできない。一本の樹とは枝葉根幹の種々異なりたる作用をなす部分を統一した上に存在するが、樹は単に枝葉根幹の集合ではない、樹全体の統一力が無かったならば枝葉根幹も無意義である。樹はその部分の対立と統一との上に存するのである。
 統一力と統一せらるる者と分離した時には実在とならない。たとえば人が石を積みかさねたように、石と人とは別物である、かかる時に石の積みかさねは人工的であって、独立の一実在とはならない。
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 そこで実在の根本的方式は一なると共に多、多なると共に一、平等の中に差別を具し、差別の中に平等を具するのである。而してこの二方面は離すことので
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