ネい。我々は行為的直観によって、物を概念的に把握するのである(概念とはベグリッフである)。行為的直観的に物を把握するということは、作ることによって見ることである、ポイエシスによって物を知ることである。私は従来、我々が物を作る、物は我々によって作られたものでありながら、それ自身によって独立せるものとして逆に我々を限定する、我々は物の世界から生れるといったが、作られたものから作るものへとして作用が自己矛盾的に対象に含まれる時我々は行為的直観的に実在を把握するのである。矛盾的自己同一的現在として自己自身を形成する世界においてのみ、かかる概念的知識が可能なのである。世界が矛盾的自己同一的現在として自己自身を形成するという時右にいった如く世界は意識的である。かかる世界の形成的要素として、我々は行為的直観的に即ちポイエシス的に実在を把握する。それが我々の概念的知識の本質であるのである。我々の今日概念的知識というものは、その根柢において物を作ることによって行為的直観的に把握し来ったものである。いわゆる実践によって獲得し来ったものである。一般には、眼が実用を離れて知識的と考えられる。しかしアリストテレスが我々は手を有《も》つ故に理性的であるといった如く私は我々の概念的知識は手から得られたのであると思う。手は運動の機関であり把握の機関であると共に、製作の道具であるのである(Noire, Das Werkzeug【#「Noire」の「e」はアキュートアクセント付き】[『道具』])。
 動物より人間へという時我々は社会的となる。上にいった如く、社会においては既に個人というものがあるのである。社会というものは、ポイエシスを中心として成立するのである。我々の概念的知識というのは、固《もと》社会的制作から発展し来ったものでなければならない。物の概念とは、固社会的制作によって把握せられたものでなければならない。社会的制作的に把握せられる物の生産様式が概念的知識の起源となるのであろう。言語というものなくして思惟というものなく、言語学者は言語は固社会的共同作用に伴うという。而して概念的知識は生産様式的に生産的なればなるほど、真なのである。今日の科学といえども、かかる立場から発展し、また何処までもかかる立場を離れないものでなければならない。無論それは何処までもかかる立場を越えたものと考えられるであろう、かかる立場を否定するとすら考えられるでもあろう。しかしそれは何処までも此処《ここ》から出て此処へ還《かえ》り来る性質を有ったものでなければならない、いわば技術的意義を有ったものでなければならない。しかのみならず、純知識的といっても、実験ということは行為的直観的に実在を把握することでなければならない。無論科学は単なる実験ではない。しかし科学においては実験と理論とは不可分離的でなければならない。而《しか》して理論というものが、如何に純理論的といっても、私のいわゆる制作によって行為的直観的に物の生産様式を把握するということから発展し来ったものでなければならない。何処までもかかる立場から歴史的に発展し来ったものでなければならない。行為的直観の地盤を離れて科学はない。ミンコフスキーは時間空間の相対性を講ずるに当って、この見解は物理的実験の地盤から生れた、そこに強味があるといった如く。
 過去と未来との矛盾的自己同一的現在として、世界が自己自身を形成するという時我々は何処までも絶対矛盾的自己同一として我々の生死を問うものに対する、即ち唯一なる世界に対するのである。我々が個物的なればなるほど、爾《しか》いうことができる。而して斯《か》くなればなるほど、逆に我々は自己矛盾的に世界と一つになるということができる。かかる立場において、世界が意識面的であり、我々の自己が意識作用的であると考えられる時、世界が一つの論理的一般者と考えられる。かかる個物的自己として行為的直観的に物を把握するのが、我々の判断作用というものである。現在において、我々が何処までも個人的自己として、個人的自己の尖端《せんたん》において行為的直観的に物を把握する所に、客観的実在の判断的知識が成立するのである。現在においての個人的自己とは何を意味するか。過去と未来とが何処までも矛盾的に合一する矛盾的自己同一的現在の世界においての個物としてということを意味するのである。いわば絶対現在としての歴史的空間の個物ということである。かかる個物的自己として行為的直観的に即ちポイエシス的に物を把握するということは、物を絶対現在としての歴史的空間において見ることであり、過去未来を包んだ現在においての物の法則を明《あきらか》にすることである、私のいわゆる世界の生産様式を把握することである。そこに客観的認識の世界があるのである。
 行為的
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