》である。時の瞬間において永遠に触れるというのは、瞬間が瞬間として真の瞬間となればなるほど、それは絶対矛盾的自己同一の個物的多として絶対の矛盾的自己同一たる永遠の現在の瞬間となるというにほかならない。時が永遠の今の自己限定として成立するというのも、かかる考を逆にいったものに過ぎない。
 現在において過去は既に過ぎ去ったものでありながら未だ過ぎ去らざるものであり、未来は未だ来らざるものでありながら既に現れているというのは、抽象論理的に考えられるように、単に過去と未来とが結び附くとか一になるとかいうのではない。相互否定的に一となるというのである。過去と未来との相互否定的に一である所が現在であり、現在の矛盾的自己同一として過去と未来とが対立するのである。而してそれが矛盾的自己同一なるが故に、過去と未来とはまた何処までも結び附くものでなく、何処までも過去から未来へと動いて行く。しかも現在は多即一一即多の矛盾的自己同一として、時間的空間として、そこに一つの形が決定せられ、時が止揚せられると考えられねばならない。そこに時の現在が永遠の今の自己限定として、我々は時を越えた永遠なものに触れると考える。しかしそれは矛盾的自己同一として否定せられるべく決定せられたものであり、時は現在から現在へと動き行くのである。一が多の一ということが空間的ということであり、多から一へということが機械的ということであり、過去から未来へということである。これに反し多が一の多ということは世界を動的に考えること、時間的に考えることであり、一から多へということは世界を発展的に考えること、合目的的に考えることであり、未来から過去へということである。多と一との矛盾的自己同一として作られたものから作るものへという世界は、現在から現在へと考えられる世界でなければならない。現実は形を有《も》ち、現実においてあるものは、何処までも決定せられたもの、即ち実在でありながら、矛盾的自己同一的に決定せられたものとして、現実自身の自己矛盾から動き行くものでなければならない。その背後に一を考えることもできない、多を考えることもできない。決定せられることそのことが自己矛盾を含んでいなければならない。
 右の如く絶対矛盾的自己同一として、作られたものから作るものへという世界は、またポイエシスの世界でなければならない。製作といえば、人は唯主観的に物を作ることと考える。しかし如何《いか》に人為的といっても、いやしくも客観的に物が成立するという以上、それは客観的でなければならない。我々は手を有するが故に、物を作ることができるのである。我々の手は作られたものから作るものへとして、幾千万年かの生物進化の結果として出来たものでなければならない。隠喩《いんゆ》的でもあるが、アリストテレスはこれを「自然が作る」η φυσι※ ποιει【#「η」に帯気(「’」の反転したもの)付き、「※」はギリシア語小文字のファイナルSIGMA、「υ」はアキュートアクセント付き、「ι」はルド付き】という。無論|斯《か》くいうも、我々の製作が自然の作用だなどというのではない。手が物を作るのでもない。然らば物を作るとは、如何なることであるか。物を作るとは、物と物との結合を変ずることでなければならない。大工が家を造るというのは、物の性質に従って物と物との結合を変ずること、即ち形を変ずることでなければならない(ライプニッツのいわゆるコムポーゼの世界において可能である)。現実の世界は多の一として決定せられた形を有った世界でなければならない。これを何処までも多から一へと考えるならば、そこに製作という如きものを入れる余地がない。これを一から多への世界と考えても、それは何処までも合目的的世界たるを免れない。唯自然の作用あるのみである、生物的世界たるに過ぎない。この世界の根柢に多を考えることもできず、一を考えることもできず、何処までも多と一との相互否定的な絶対矛盾的自己同一の世界にして、個物が何処までも個物として形成的であり物を作ると共に、それは作られたものから作るものへとして、何処までも歴史的自然の形成作用ということができる。
 時が何処までも一度的なると共に、現在が時の空間として、現在から現在へと、現在の自己限定から時が成立すると考えられる如く、世界が矛盾的自己同一として作られたものから作るものへということは、個物が製作的であるということであり、逆に個物が製作的であるということは、世界が作られたものから作るものへということである。我々がホモ・ファーベルであるということは、世界が歴史的ということであり、世界が歴史的であるということは、我々がホモ・ファーベルであるということである。而して絶対矛盾的自己同一の世界においては、時の現在において時を越えたも
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