有であり、未来は未《いま》だ来らざるものでありながら既に現れているという矛盾的自己同一的現在(歴史的空間)において、物と物とが表現的作用的に相対し相働くのである。そこには因果的に過去からの必然として、また合目的的に未来からの必然として相対し相働くのではない。矛盾的自己同一的に、一つの現在として現在から現在へと動き行く世界、作られたものから作るものへと自己自身を形成し行く世界においてのみ、爾《しか》いうことができるのである。
自己自身を形成し行く世界の形から形へということは、あるいは飛躍的とか無媒介的とか考えられるであろう。個物の働きというものがないとも考えられるであろう。しかし私の考はその逆である。個物とは何処までも自己自身を表現的に限定するものでなければならない、表現作用的に働くものでなければならない。世界の有つ形とは、かかる個物の相互否定的統一、矛盾的自己同一として現れるものでなければならない。それは逆に無数なる個物の表現作用が絶対矛盾的自己同一的世界の無数の仕方においての自己表現といわなければならない。再び我々の自己の意識統一によって考えて見よう。我々の意識現象とは、その一々が独立であり、自己表現的である。その一々が自己たるを主張し要求するといってよかろう。しかも我々の自己というのはジェームスのいう羊群の焼印の如きものではなく、かかる自己自身を表現するものの否定的統一として、形を有ったものでなければならない。それが我々の性格とか個性とかいうものである。自己というものが超越的に外にあるのでなく、意識する所そこに自己があるのであり、その時その時の意識が我々の全自己たるを主張し要求する。しかもそれを否定的に統一し行く所に、真の自己というものがあるのである。我々の自己の意識統一においても、現在において過去と未来とが矛盾的に結合し、全自己が一つの矛盾的自己同一的現在として、過去から未来へと、生産的であり創造的である。意識統一というものも、通常は世界から離して抽象的に(心理学的に)考えられるのであるが、具体的には自己自身を形成する世界の表現作用的個物として考うべきであろう。
一々の個物が何処までも個物的として表現作用的に自己自身を限定するというべき絶対矛盾的自己同一の世界において、個物的多が自己否定的に単に点集合的に考えられる時、それが物理的世界である。物理的世界は数学的記号によって表される数学的形の世界である。個物がそれぞれの仕方において世界を表現すると考えられる時、それが生命の世界である。その環境に即したものが生物的生命の世界である。そこでは個物はなお真に表現作用的でない。個物が何処までも表現作用的に自己自身を限定するという時、人間の歴史的世界である。世界は絶対矛盾的自己同一的現在として自己自身を形成し行く。生物的世界はいうまでもなく、物質的世界も形を有つ。しかしそれは生産的でない、創造的でない。故になお現在から現在へ、形から形へといわれない、なお真に作られたものから作るものへとはいわれない。過去と未来とが相互否定的に現在において結合する所、そこにはいつも過去から未来へという時が消されると考えられる、即ち意識面がある。歴史的世界は意識的である。表現作用というものを考えなければ、形から形へということは単に無媒介と考えられる、作用と形というものが無関係と考えられる。しかし働くということは、全世界との関係において、全世界の形において成立するのである。物理現象においても爾《しか》いわなければならない(ロッチェはその『形而上学』においてこの点を明《あきらか》にしていると思う)。全世界の有つ形、私のいわゆる生産様式と作用とは離して考えることはできない。人は多く作用というものを全世界との関係から離して抽象的に考えている。物理作用とか、生物的作用とかいうものでも、爾考えることができる。しかし表現的作用というものは、爾考えることはできない。主体が環境を、環境が主体を形成すると考えられる絶対矛盾的自己同一の世界においては、物質的世界というものも既に作られたものであり、作られたものは環境的として主体を形成し行く。物質の世界から生物の世界へ、生物の世界から人間の世界へ発展するのである。矛盾的自己同一ということが、抽象論理的に考えられないといっても、実在とは此《かく》の如く自己自身から動くものであろう。
我々がこの世界において働くということは、物を形成することであり、私が行為的直観的に物を見、物を見るから働くというのは、右の如く個物が何処までも表現的に世界を形成することによって個物であり、逆にそれが絶対矛盾的自己同一の世界の自己形成の一角であるというによるのである。行為的直観というのは、我々が自己矛盾的に客観を形成することであり、逆に我々が客観から
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