人が意気|冲天《ちゅうてん》、他宗を罵倒し、北条氏を目して、小島の主らが云々と壮語せしに比べて、吉水一門の奇禍に連《つらな》り北国の隅に流されながら、もし我《われ》配所に赴かずんば何によりてか辺鄙の群類を化せんといって、法を見て人を見なかった親鸞上人の人格は頗る趣を異にしたものといわねばならぬ。風|号《さけ》び雲走り、怒濤澎湃《どとうほうはい》の間に立ちて、動かざること巌《いわお》の如き日蓮上人の意気は、壮なることは壮であるが、煙波|渺茫《びょうぼう》、風|静《しずか》に波動かざる親鸞上人の胸懐はまた何となく奥床《おくゆか》しいではないか。
[#地から1字上げ](『宗祖観』大谷学士会発行、明治四十四年四月、第一巻)
底本:「西田幾多郎随筆集」岩波文庫、岩波書店
1996(平成8)年10月16日第1刷発行
1998(平成10)年9月16日第3刷発行
底本の親本:「西田幾多郎全集 第一巻」岩波書店
1987(昭和62)年発行
初出:「宗祖観」大谷学士会
1911(明治44)年4月
入力:アキトチ
校正:鈴木厚司
2003年10月23日作成
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