な身分に成りはせず、十七の年、世にも恐ろしい疑いを受け、養母殺しの罪人だとて終身の刑に処せられました、それでも此のまま牢死しては母の死に際の頼みを果たす事が出来ぬと思い、様々の事をして牢を脱け出し、今貴方の前に母にかわってお謝罪をして居るのです」叔父は寝台より辷り降り「オオ我が娘で有ったのか」と、抱き上げて熱い涙を真に雨の様に秀子の背に潜々《さめざめ》と降らせ落とした。
第百二十三回 大団円
秀子の物語には叔父のみでなく余も泣いた、権田時介も泣いた、殊に時介は、一種奇妙な義侠心の有る男で、自分の感情の為には命でも身代でも惜しまぬと云う意気を備え、既に秀子が為に業務を抛《なげう》つ程にまで働いたのも愛の為とは云え平生其の意気の有る人でなくては出来ぬ事、従っては斯る場合の感動も人一倍強いと見え、顔に当てた手巾《はんけち》の中から歔欷《すすりなき》の声を洩らした。
実に秀子の今までの境遇を考えて見れば是が泣かずに居られようか、我が父に逢って母の遺言を果たし度いとそれのみを心掛けて居るうちに、無実の罪に捕えられ何と言い開くも聴かれずして遂に牢の中の人と為り、命掛けの手段を以て漸く牢を出てからも人の一生に見た事もないほどの艱難辛苦を嘗めて居る、之を思うと余は最愛《いと》しさが百倍するけれど、悲しや其の人は既に他人の物、余は其の最愛しさを憎さと見せて居ねば成らぬ。
若し秀子が艱難も漸く届き今は其の身の潔白が分ると共に父に向かって母の死に際の願いを伝える事に立ち到ったのである、悲しさを別にして嬉しさのみの為にも涙が出る。
是で今まで合点の行かなんだ様々の事も分る、密旨の第三は確かに、父と親子の名乗りをして母の言葉を伝えるに在ったのだ、又叔父が初めて秀子に逢ったとき、分れた妻に似て居ると云って、殆ど我が子の様に思い、手を盡くして遂に養女にしたのも尤もである。
秀子は父の泣き鎮まり、其の身の心も稍や落ち着くを待って又説き始めた、「私をお紺の養女にする事は、勿論母が拒みました、けれどお紺が云うには本名の儘で母子が茲に忍んで居ると分れば父上が何れほど立腹遊ばすかも知れぬゆえ、後々は兎も角も帰参の叶う時までは自分の子にして、人に何者とも悟られぬ様にして置かねば成らぬなど言葉巧みに説きまして遂に私を輪田の姓に直し、本名の春子をも夏子と改めて了いました、私は松谷秀子でもなく輪田夏
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