いは秀子が早や毒薬を呑んで、死んで斃れて居る姿であったかも知れぬ、斯う思うと真に気が迫られる、一刻も早く塔の底へ降って行き度い。
 けれど十一時が打たねば何うする事も出来ぬ、再び蝋燭を点し、時計の鐘が鳴れば直ぐにと用意の調った所で、嬉しや十一時は打ち初めた、見て居ると予算の通りだ、鐘の音の一点毎に壁の戸が六七分ぐらいづつ開く、全く緑盤の動き方の三分一ほどに当るのだ、併し是では十一度打った所で一尺とは開かぬが、何うか開け放す工夫は有るまいかと、手を添えて戸を引き開ける様にするけれど、戸は余の力では少しも動かぬ、唯鐘の声と一所に動くばかりである、爾して其の動く度に、壁の端に空所が出来て、戸の表に有る十二個の凸点が差し支えずに一個々々其の空所を通って行く、実に精巧な仕掛けである。
 頓て凸点は十一だけ壁の中へ隠れて了った、戸は七八寸開いた、茲ぞと思って余は再び戸に力を加えたけれど悲しや、早や凸点の通過する壁の空所が塞って、最後に残って居る一個の凸点が之に支え、到底開く可き見込みがない、アア待ちに待った十一時は鳴ったけれど、余は此の関所を通り越す事が出来ぬ、恨めしいとも情けないとも殆ど言い盡す言葉がない。
 けれど余は漸く合点が行った、今のは十一時で有ったから、十二の凸点が一個残り、之が閊《つか》えて戸を開け放す事が出来なんだけれど、若し十二時になれば意地の悪い凸点が悉く隠れるから戸は人の力で充分開け放す事が出来るのだ、斯う思って再び戸を見ると戸は自然に後へ返り、早や元の通りに閉じて了った、幾等泣いても悶いても仕方がない、唯十二時を待つ許りだ、十時に這入って此の窮屈な所に十二時まで待つとは、日頃なら到底出来ぬ辛抱だ、と云って出る所もないのだから出来ぬ辛抱を余儀なく強いられるのだ。
 此の間の余の煩悶は管々しく書くに及ばぬが凡そ三千年も経ったかと思う頃漸く十二時とは為った、全く余の見抜いた通りである、鐘の音の十二鳴り盡くすと共に十二の凸点が隠れて了ったから、余は戸に手を掛けて引き開けたが、意外に軽く、突き当るほどに開け放れた、一人も二人も通過する事の出来る広さである、余は雀躍《こおどり》して茲を抜けたが、是で見ると此の関所は十二時でなければ出入りの出来ぬ所だ、秀子が茲を通ったのは真昼の十二時で有ったのか、爾すると明日の真昼までは此所を出る事が出来ぬか知らん。
 戸の外は矢張り
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