より又二寸多く、四時は又夫よりも二寸を増し凡そ八寸程開いた、此の割で見ると五時には一尺、六時には一尺二寸爾して十二時には終に全く開いて了うのだ、必ずしも秀子が機械を狂わせた訳ではなく、機械の本来の仕組が爾成って居るのだ。
 斯う思うと共に余は二個の事を発明した、其の一つは、秀子が此所を潜ったのは朝の十時から昼の十二時までの間である、即ち余が茲へ来るより少し許り前であった、十時より前には緑盤の隙間が狭いから如何に女の優かな身体と雖《いえど》も這入る事の出来なんだ筈である、其の二つは、余が潜るにも今夜の十時以後でなくばならぬ、十時には二尺開くだろうから、何うか斯うか潜れよう。今から、十時まで空しく待つとは殆ど堪え難い所である、けれども待つ外に仕方がない、十時までの間に塔の底で、秀子の身が何の様になるかと思えば真に矢も楯も耐まらぬ思いである、けれど力の及ばぬ事は嘆いても詮がないゆえ、漸く我慢して十時を待つと云う事には決心したが、さて斯うなって見ると、初めて自分の身体が一方ならず疲れて居る事が分る、腹も空いて居る、眠さも余ほど目に借り越しになって居る、今まで夫を感ぜずに悶いて居られたが不思議である。
 兎も角身体の精力を回復せねばと、此所を立ち去って食事もした、余所ながら叔父の病状をも見舞って、最早気遣わしい事もないとの旨を聞き定めた、爾して自分の居間に入り、九時半には起こして呉れる様に目覚時計を強く掛けて置いて、身を横にした。
 三〇分と経ぬ様に思ったけれど目覚しに起こされて跳ね起きるや早九時半で、何だか電気の鬱積した様に甚く頭が重い、窓を開けて外を見ると、冬の季には珍しい天候で、空は墨を流す様に黒く、爾して雲の割れ目から時々電光が閃き、遠い雷の音も聞こえる、是が真の荒れ模様と云うのだろうと余は気象の事には素人なれど斯う思ったが、後に千八百九十八年の異様なる天候として気象雑誌などに甚く書き立てられたのは即ち此の夜の天候である、此のとき英国に居た人は此の夜が如何なる荒れ方で有ったかを充分覚えて居るだろう、けれど余は天候などは気にも留めず、唯是より塔の中へ入るに就いては、先に養蟲園の経験も有り、燈明の用意だけは充分にして置かねばならぬと思い燐燧の箱を詰め替えて、爾して忍びの蝋燭も半打《はんだあす》の包を其のまま衣嚢に入れ、愈々冥途の探険と云う覚悟で再び時計室へ登って行ったが丁
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