を貴方にでも秀子にでも見られては何事も面白く行かぬと思い私は長三に其の旨を説き、ヤッと彼を追っ払いました、彼が立ち去ると引き違えて貴方が一方の戸の所から這入って来ました。
「其の後の事は申さずとも御存じの通りです。夫から私は貴方の言葉に失望して、庭の方へ立ち去ると松谷秀子に逢いましたから、寧ろ此の女を貴方の前へ連れて行って、無理にでも左の手袋を取らせるが近道かと思い、話が有るからと云って誘い、引き連れて再び書斎へ行って見ますと最う貴方は居ないのです、居ないのではなく、後で分りましたが大怪我をして声も立たぬほどの有様となって本箱の蔭に倒れ、私と秀子との問答を聞いておいでなさったのです。
「最う序でですから何も彼も申して置きますが貴方の怪我も長三の仕業です、彼は私に追い払われて一旦窓から立ち去りましたけれど、立ち去ったと見せて又引き返し、アノ室の仕組は誰よりも能く知って居る者ですから、壁の間に秘密の道が有ると知り其所へ潜り込んで爾して様子を窺って居た相です、窺って居ると私が貴方に向かいアノ通りの事を云いましたから、彼は貴方が世に有る間は到底《とて》も私を自分の妻にする事は出来ぬと思いましたか、自分では嫉妬の一念に目が眩んだと云いますが私の立ち去った後、貴方が壁の傍へ来て、丁度長三の居る所へ背を向けて立ったのを幸い、ソッと秘密の戸を開き貴方を刺したのだと申す事です」
長三が其の様な事をするは余に取って左まで意外な事ではない、けれど余は今が今まで確かに彼とは思い得ず、又壁の間などに秘密の戸や秘密の道などが有る事も知らねば、到底説き明かす事の出来ぬ不可思議の事件だと思って居た、是で見るとお浦の口から未だ何の様な意外の事件が説明せられるかも知れぬ。
第百回 成功の種
勿論幽霊塔は、奇妙な建築で、秘密の場所のみ多いけれど、彼の書斎の壁の背後に人の隠れる様な所の有るは知らなんだ、探偵森主水さえ看破る事が出来なんだ、此の向きでは猶何の様な不思議の事を聞くかも知れぬと、余が耳を傾くると共にお浦は徐々《しずしず》語り続けた。
「貴方が怪我して、イヤ刺されて本箱の蔭に仆れて居ようとは私も秀子も其の時は未だ知りませんから、誰も聞く人はないと思い、云い度い儘を云い、争い度い儘に争った事は定めし御存じでしょう、爾して争いは私の勝と為り終に秀子の左の手袋を奪い取り其の下を見ましたが、全くお
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