れば有る者、爾して其の心で時々余を煽動《おだて》て、暗に自分の密旨を手伝うて呉れろと云う様に勧め、猶其の上に、或る時は他人の事の様に夏子の事を物語り、又或る時は叔父が何れほど彼の死刑を主張したかと聞き出そうと勉めるなど、思い当る節も多い、爾して今は、何うか斯うか其の目的を達し、到々叔父を毒害する迄に至ったのだ、夫を知らずに唯秀子を助け度い一心で奔走に奔走した余の愚かさも愛想が盡きる。何で今まで気が附かずに居たのだろう。
第八十四回 最後の一言
余は全く自分の愚かさと、秀子が素性の穢らわしさとに愛想を盡したと云え、深く心の底に根を卸した愛の情は仲々是しきの事で消えて了う者では無い、唯残念だ、唯情け無い、真に手の裡《うち》の珠をでもなくした様な気持がして、急に身の上が、淋しく心細く成って了った。アア彼の様な者を愛せねば宜ったのに、愛しさえせずば其の素性を聞き、驚きはしようとも斯う絶望はせぬ筈だのに。
残念、残念と幾度か呟いて、泣き出したい様な気になり、暫し何事も心に移らぬ様で有ったが、頓て先生の声に気が附いた、先生は余の肩を推し「モシ丸部さん、丸部さん、貴方は再び秀子嬢の顔を作り直して貰う為に来たではないのですか、その為でなくば何の為です、貴方の目的は何所に在ります」余は身を悶えて「エエ、其の様な目的ではないのです、貴方に逢えば秀子の素性の清浄潔白な事が分るかと思ってハイ其の清浄潔白を世に知らせる確かな証拠を得たいと思って」先生「オヤオヤ夫はお気の毒です、少しでも秀子の素性を潔白らしく認めたくば私の許へ足踏みをしては成らぬのです、茲は穢い素性ばかり集めてある畜蔵所の様な者ですから、手もなく貴方は反対の方角へ来たのです」余「ハイ是で自分の愚かさに愛想が盡きまして」先生「そう仰有られては私も、何とも早やお気の毒に堪えませんが、と云って先刻受け取った報酬をお返し申す訳には行きません、私は何所までもアノ報酬に対し自分の勤むべき丈勤める覚悟のみならず報酬を得た上で無くば打ち明けられぬ貴重な秘密を打ち明けて、云わば貴方に活殺《かっさつ》の灸所を握られたと一般ですから」
勿論報酬を返して貰い度いなどとは思わぬ、唯何となく悔しくて殆ど身の置き所もない程故、余は何の当ても決心もなく、徒《いたずら》に室の中を駆け廻った、今思うと定めし気違いじみて居た事だろう。
頓て余は、再び卓
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