問合せの為でした。
「勿論総ての点を私は満足に答え、今まで私の手を経た人は再び見破られた例《ためし》がないと云いました。イイエ是は決して手前味噌では有りません、私が此の手術を発明して以来、牢を脱けたり、法律を逃れたりした人達が、私から新たな生命を受けたのは殆ど数え切れぬほどで其の顔形は既に今見た穴倉の両側の押入れに満ちて居る程ですが、中には英人も仏人も露人米人、濠洲人に至るまで殆ど全世界の人が有ります、けれど孰れも今は全くの別人と為り済まして無事に世を送って居ます、甚しいのは死刑の宣告を受け、上告中に脱獄して、爾して私の救いを受け、一年と経ぬうちに、然る可き履歴書を作って、直ぐに其の同じ牢屋の監獄医に採用せられた人も有るのです」
 是、暗に大場連斎を指す者に違いない、扨は彼も一たび死刑の宣告まで受けた身の上であるのか、是で見ると此のポール・レペル先生自身も自分に新生命を与えた一人かも知れぬ、此の様な発明は最初に人の身体へ試験する事は出来ず必ず自分の身に実験して、爾して此の通り法律の網を潜る事が出来るぞと罪人社会へ手本を示した者であろう、斯う思うと先生の称号を加えるが何となく忌わしい心地もする。
 先生「是程手広く人を救うて能くも此の職業の秘密が世間へ洩れずに居る事を怪しむでしょうが、夫は最う充分に大事を取って有るのです。私が先ず腹蔵なく依頼者の秘密を聞いた上でなければ需《もとめ》に応ぜぬは是が為です、依頼者は既に私は自分の悪事を聞き取られた上に前身の顔形と後身の顔形とを取られて居ますゆえ、全で私に咽喉首を握られて居る様な者で決して私の事を口外し得ないのです、口外すれば自分の生命がないのです、夫だから私の職業の秘密は其の人の生命と同じほど大切に守られて来たのです、イヤ是は話が横道へ反《そ》れました、是から権田時介の来て後の次第を申しましょう」

第八十二回 美少年

 先生の言葉は次の如く引き続いた、「扨私が何の様にでも女の顔を作り直して遣ると答えた者ですから、権田時介は大いに喜び、それでは近々連れて来るから宜しく頼むとて立ち去りました、是より二週間も経て後ですが、英国の新聞に、殺人女輪田夏子が牢死したという事が出ました、私は之を見て、自然に権田時介の事を思い出し、様々に考えて様々の想像を附けましたが、それから二週間ほどすると、権田時介が一人の少年を連れて参りました。
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