て証言させる。此の人と秀子との関係は分らぬけれど、秀子に新しい命を与えるとまで云われる人だから、此所で其の新しい命を与え、死中に活を得て秀子の危急を救うて貰わねばならぬ。
 余は堅く決心して、森に向い、何うか秀子の拘引を今より三日猶予して呉れと請い、其の間には必ず反対の証拠を示しますと断言した。森「イヤ今から三日ならば大方私の思う通りですから、別に貴方の請いに応じて猶予して上げるという程でもありません。反対の証拠が(若しあるなら)充分にお集めなさい、併し三日より上の猶予は決してありませんよ」余「宜しい」森「何うして貴方から決して秀子に逃亡させぬという事を誓って貰わねばなりません」余「誓います、決して逃亡はさせません」先ず相談一決した様な者だ。巴里へ行って何の様な事になるかは知れぬけれど外に何の工風もないから、余は早速巴里を指し出発する事とした。

第六十九回 悪魔の世界

 心矢竹《こころやたけ》に逸《はや》るとは此の時の余の思いであろう。一刻も早く巴里へ行きレペル先生とやらに逢って、一刻も早く秀子を救う手段を得たいとはいえ、真逆《まさか》に死に掛って居るという我が叔父の顔をも見ずに出発するわけにも行かぬ。叔父の目の覚めるまでは何うしても待って居ねばならぬ。
 待つ間を、秀子の室に行ったが、探偵の云った事を其の儘秀子の耳に入れる訳には行かぬ。御身は果たして前科者なるやと、茲で問えば分る事では有るが、余の口が腐っても其の様な事は能う問わぬ。前科者でないに極って居るのに何も気まずく問うに及ばぬ、又茲で逃亡を勧めるのも最と易い、けれど是も必要のない事だ、潔白と極って居る者に、逃亡など勧める馬鹿が有る者か、其の潔白の証拠を集めるのが此の巴里行の余の目的ではないか。
 余は唯秀子に向い、何も彼も余が引き受けたから少しも心配するに及ばぬ、親船に乗った気で居るが好いとの旨を、繰返し繰返して云い聞かせた、秀子は誰一人同情を寄せて呉れる者のない今の境涯に、此の言葉を聞き深く余の親切に感ずる様子では有るが、併し親船に乗った気には成れぬと見える、兎角に心配の様子が消えぬ。
 其のうちに叔父が目を覚ましたと、女中の者が知らせて来た。余は秀子に向い、止むを得ず巴里へ行くけれど一夜泊で帰ると云い猶留守中に何事もない様に充分計って置いたからと、保証する様な言葉を残し、直ちに叔父の寝室をさして行っ
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