当の悪いと云う非難は免れぬかも知れませぬけれど、それを罪跡などとは」余「成るほど私の思い違いかも知れません、併し罪跡か否やの鑑定は貴方と私と素人同志で茲で争ったとて果てしがないから先刻も云う通り其の筋の判断に任せましょう、寝台が陥穽に成って居て、眠って居る者を出し抜けに古井戸へ落し込んだり、或いは当主の母が燈火を持って、庭へ穴を掘り、爾して公の手続きも経ずに埋めた死骸が数の知れぬ程あるなどは、其の筋で医者の普通と認めるか、縦し又普通と認めた所で、家の当主には何の構いもない者か、其の辺の所は直ぐに分りますから、其の方が早道です。ドレ穴川さん誠に長座を致しました」と故と謝する様に云い、余は胸の中に充分の勝利を畳んで、座を立ちかけた。

第六十四回 新たな生命

 余が愈々立ち去ろうとするを見て、穴川はあわてて熱心に引き留めた。「お待ち成さい、お待ち成さい丸部さん、少し云う事が有りますから」
 偖は彼全く閉口したと見える、余は言葉短かに「何ですか」穴川「貴方は未だ秀子の身の上を知らぬのです、私を追い払えば秀子が助かると思うから間違いです。秀子の身の幸福にする事の出来るは広い世界に唯一人しかないのです、其の人は私では有りません」実に異様な言い分で、余は合点し兼ねるけれど、何だか口調が嘘らしくも見えぬから「エ、何ですと」穴川「其の人の許へ行って頼みさえすれば、イヤ其の人が諾《うん》と承諾しさえすれば、誰が何と云ったとて秀子をどうする事も出来ません。私が此の国に居ようが居まいが少しも関係はないのです。又其の人の承諾を得ぬ限りは貴方が何の様に骨折ったとて少しも秀子の身を幸いにする事は出来ません、云わば秀子が神の使いの様な者で神の意一つで幸福にも不幸福にも成るのです。其の神へ願わずに他人が小刀細工を施したとて何うなりますものか」是だけ云いて余が猶充分に信ぜぬ様を見、「丸部さん、貴方は秀子が密旨を帯びて居ると云うのを聞いた事は有りませんか。それを聞いた事がなくば私の話は分りませんが、若しも聞いた事が有るなら必ずお分りになりますよ」益々奇妙な事を云うが、併し秀子の密旨などを持ち出す所を見れば聞き捨てる訳にも行かぬ。余「ハイ聞きました」穴川「命に代えても行い度いと云う程の密旨ですから一通りの事では有りません。其の密旨を誰が秀子に授けました。私の今云うた神様です、サア其の神様は秀子に命をも
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