者が有るんです今度は直《すぐ》自分で馳附《かけつけ》ました、馳附て馬道の氷屋を片ッぱしから尋ねました所が居無い又帰って能く聞くと―(荻)爾《そう》長たらしくては困るズッと端折《はしょっ》て/\、全体お紺が居たか居ぬか夫《それ》を先に云わんけりゃ(谷)居ました居ましたけれど昨夜三十四五の男が呼《よび》に来て夫《それ》に連られ直帰るとて出たッ切り今以て帰らず今朝から探して居るけれど行衛も知れぬと申ます、エ怪いじゃ有りませんか的切《てっき》り爾ですぜ三十四五の男と云うのがアノ死骸ですぜ、夫も詳しくは覚えぬと云いますけれど何《どう》だか顔が面長くて別に是と云う癖も無く一寸《ちょっ》と見覚えの出来にくい恰好だッたと申ます、左の頬に黒痣《あざ》はと聞きましたら夫は確かに覚えぬが何でも大名縞の単物《ひとえもの》の上へ羽織を着て居たと云う事です、コレは最《も》う氷屋《こおりや》の主人も雇人も云う事ですから確かです(荻)併し浅草の者が築地まで―(谷)夫も訳が有ますよお紺は氷屋などの渡り者です是までも折々築地に母とかの有る様な話をした事も有り、又店の急《いそが》しい最中に店を空《あけ》た事も有ます相で(荻)夫では最《も》う何《ど》うしてもお紺を召捕らねば(谷)爾ですとも爾だから帰ったのです何でも未だ此府下に隠れて居ると思いますから貴方に願って各警察へ夫々《それ/″\》人相なども廻し其外の手配も仕て戴き度いので、私《わた》しは是より直《すぐ》に又其浅草の氷屋で何う云う通伝《つて》を以てお紺を雇入たか、誰が受人だか夫を探し又愈々築地に居る母とか何とか云う者が有るなら夫《それ》も探し又、先の博奕宿が未だ有るか無いか若し有るなら昨夜|何《ど》の様な者が集ッたか、其所《そのところ》へお紺が来たか来ないか、と夫から夫へ段々と探し詰ればナニお紺が何所に隠れて居ようと直に突留めますお紺さえ手に入れば殺した者は誰、殺された者は誰、其訳は是々と直《すぐ》に分ッて仕舞います」何の手掛も無き事を僅か一日に足らぬ間に早や斯くまでも調べ上《あげ》しは流石老功の探偵と云う可し、荻沢への説明終りて又も警察署を出て行く、其門前にて「イヨ谷間田君、手掛りが有《あっ》たら聞《きか》せて呉れ」と呼留《よびとめ》たるは彼の大鞆なり大鞆は先刻宿に帰りてより所謂《いわゆる》理学的論理的に如何なる事を調《しらべ》しや知らねど今又谷間
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