通り探偵するサ外の事と違い探偵ほど間違いの多い者は無いから何うかすると老練な谷間田の様な者の見込に存外間違いが有て貴公の様な初心の意見が当る事も有る貴公は貴公だけに遣《やっ》て見たまえ(大)ヘイ私《わた》しも是から遣て見ます(荻)遣るべし/\」と励す如き言葉を残して荻沢は立去れり、大鞆は独り手を組で「旨い長官は長官だけに、一寸《ちょい》と励まして呉れたぞ、けどが貴公の様な初心とは少し癪に障るナ、初心でも谷間田の様な無学には未だ負けんぞ、ナニ感心する者か、併し長官さえ彼《あ》れ程に賞《ほめ》る位だから谷間田は上手は上手だ自惚《うぬぼれ》るも無理は無い、けどが己は己だけの見込が有るワ、見込が有るに依て実は彼奴《きゃつ》の意見の底を探りたいと下から出て煽起《おだて》れば図《ず》に乗てペラ/\と多舌《しゃべ》りやがる、ヘン人《ひと》、彼奴が経験経験と経験で以て探偵すれば此方は理学的と論理的で探偵するワ、探偵が道楽で退校された己様だ無学の老耄《おいぼれ》に負て堪る者か、彼奴め頭の傷を説明する事が出来んで頭挿《かんざし》で突たなどと苦《くるし》がりやがるぞ此方は一目見た時からチャアンと見抜てある所持品の無い訳も分って居るは、彼奴が博奕場と目を附たのも旨い事は旨いけどがナニ、博奕場の喧嘩に女が居る者か、成る程ソリャ数年前に縮れッ毛の女が居たかも知れぬ、けどが女が人殺の直接のエジェンシー(働き人《て》)と云う事は無い、と云って己も是だけは少し明解し兼《かね》るけれどナニ失望するには及ばぬ、先ず彼奴《きゃつ》の帰るまで宿へ帰ってアノ髪の毛を理学的に試験するだ、夕方に成って又|茲《こゝ》へ来りゃ彼奴必ず帰って居るから其所で又少し煽起《おだて》て遣れば、爾《そう》だ僕は汗水に成て築地を聞合せたけどが博奕宿の有る所さえ分らなんだと斯う云えば彼奴必ず又図に乗て、手柄顔に自分の探偵した事も悉皆《すっか》り多舌《しゃべっ》て仕舞うテ無学な奴は煽起《おだて》が利くから有難いナア、好い年を仕て居る癖に」
独言《ひとりごち》つゝ大鞆は此署を立去りしが定めし宿所にや帰《かえり》けん扨も此日の将《まさ》に暮んとする頃|彼《か》の谷間田は手拭にて太き首の汗を拭きながら帰り来り直《すぐ》に以前の詰所に入り「オヤ大鞆は、フム彼奴何か思い附《つい》て何所かへ行たと見えるな」云いつゝ先ず手帳紙入など握《つか》み出
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