》しや頭挿《かんざし》で突たのでは無いかと思い一寸《ちょっ》と君の心を試して見たのだ素徒《しろうと》の目でさえ無論|簪《かんざし》の傷で無いと分る位だから其考えは廃したが兎に角、縮れッ毛の女が傍に居て其髪を握《つか》まれた事は君にも分るだろう(大)アヽ分るよ(谷)其所で又己が思い出す事が有る、最《も》うズッと以前だが博賭徒《ばくちうち》を探偵する事が有て己が自分で博賭徒《ばくちうち》に見せ掛け二月《ふたつき》ほど築地の博徒宿に入込んだ事が有る其頃丁度築地カイワイに支那人の張《はっ》て居る宿が二ヶ所あった、其一ヶ所に恐しいアバズレの、爾サ宿場女郎のあがりでも有《あろ》うよ、でも顔は一寸と好い二十四五でも有うか或は三十位でも有うかと云う女が居た、今思えば夫が恰度《ちょうど》此通りの縮れッ毛だ(大)夫は奇妙だナ(谷)サア博賭宿と云い縮れッ毛の女と云い此二ツ揃ッた所は外に無い、爾思うと心の所為《せい》かアノ死顔も何だか其頃見た事の有る様な気がするテ、だからして何は兎も有れ己は先ず其女を捕えようと思うのだ、名前は何とか云《いっ》たッけ、之も手帳を見れば分る爾々《そう/\》お紺と云ッた、お紺/\余り類の無い名前だから思い出した、お紺/\、尤も今|未《ま》だ其女が居るか居無いか夫も分らぬけれど、旨く居て呉れさえすれば此方の者だ、女の事だから連て来て少し威《おど》し附ればベラベラと皆白状する、何《ど》うだ剛《えら》い者だろう(大)実に恐入ったナア、けどが其宿は何所に在るのだ築地の何所いらに、夫さえ教えて呉れゝば僕が行て蹈縛《ふんじばっ》て来る、エ何所だ直に僕を遣て呉《くれ》たまえ」谷間田は俄《にわか》に又茶かし顔に復《かえ》り「馬鹿を言え是まで煎じ詰めた手柄を君に取られて堪る者か(大)でも君は、僕の為に教えて遣ると云ッたでは無いか、夫で僕を遣て呉れ無いならば教えて呉れたでは無い唯だ自慢を僕に聞せた丈の事だ(谷)夫れほど己の手柄を奪い度《た》きゃ遣てやろうよ(大)ナニ手柄を奪うなどと其様な野心は無い僕は唯だ―(谷)イヤサ遣ても遣《やろ》うが第一君は何うして行く(大)何うしてッて外に仕方は無いのサ君に其町名番地を聞けば後は出た上で巡査にでも郵便配達にでも聞くから訳は無い、其家へ行て此家《このや》にお紺と云う者は居無いかと問うのサ」谷間田は声を放ッて打笑い「夫だから仕方が無い、夜前人殺と
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