ともできないんじゃ、仕方がない、せめてはパリ第一の遊び場に陣取ってうんと遊ぶんだね。」
 二人はそう相談をきめて、モンマルトルの真ん中に宿をとったのだ。そして予定通り昼夜兼行で遊び暮しながら僕はリヨンからのたよりを待っていた。ヨーロッパ歴遊の新しい旅券が手にはいれば、すぐ知らしてよこす筈になっていたのだ。そして僕はその知らせとともにリヨンに帰って、すぐまたドイツへ出発する手続きにかかる筈だったのだ。
 一週間ばかりしてその知らせが来た。まだ遊び足りないことははなはだ足りない。それにようやくまずこれならと思うお馴染ができかかっていたところなのだ。が、その知らせと同時に、僕にとっては容易ならん重大事がそっと耳にはいった。それは、日本の政府からパリの大使館にあてて、Sの素行を至急調べろという訓電が来たということだ。僕はこれはてっきり、Sを調べさえすれば僕の所在も分るという見当に違いない、と思った。
(これはあとで、メーデーの日の前々日かに、パリでそっと耳にした話だが、実はその時すでに、日本政府からドイツの大使館に僕の捜索命令が来て、そしてその同文電報がドイツの大使館からさらにヨーロッパ各国の
前へ 次へ
全159ページ中81ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング