ッない自動車が走って来て、やがてまたそれらしい自動車が戻って来た時などは、こんどこそ捕まるものと真面目に覚悟していた。
 それが何でもなく通りすぎた時、僕はRに本当の目的を話してないことが堪らなく済まなかった。そして幾度もそれを言おうとして、口まで出て来るのをようやくのことでとめた。彼は決して信用のできない同志ではなかった。しかしまだ僕等の仲間にはいってから日も浅かった。そしてごく狭い意味での僕等の団体とは直接に何の関係もなかった。
 そして僕は無事に大船から下りの列車に、彼は上りの列車に乗った。これはあとでKから聞いたことだが、Rはその時のことを誰にも話さず、またKにもその他の誰にもかつて僕の行衛を尋ねることがなかったそうだ。僕は今でもまだ、彼の顔を見るたびに、ひそかに当時のことを彼にわびそして感謝している。
 Wの姿が見えなくなるとすぐ、僕はボーイに顔を見られないように外套の襟を高く立てて、車内にはいって寝台の中にもぐりこんだ。僕はまだ僕の顔の一番の特徴の、鬚をそり落していなかったのだ。そして一と寝入りした夜中に、そっと起きて、洗面場へ行って上下とも綺麗に鬚をそってしまった。そして
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