フだろうと思って、ちょっとその封筒をすかして見たが、薄い一枚の紙を四つ折にしたぐらいの手触りのものだ。もう長い間の習慣になっているように、それがどこかで開封されているかどうか、まず調べて見たが、それらしい形跡は別になかった。ただ附箋が三、四枚はってあったが、それは鎌倉に宛てて書いてあったので、そこから逗子に廻り、さらにまた東京に廻って来た[#「廻って来た」は底本では「廻った来た」]しるしに過ぎなかった。そんなにあちこちと廻って来ながら、よく開封されなかったものだと思いながら、とにかく開けて見た。ほんのただ十行ばかり、タイプで打ってある。
 それを読むと、急に僕の心は踊りあがった。一月の末から二月の初めにかけて、ベルリンで国際無政府主義大会を開くことになったが、ぜひやって来ないか、という、その準備委員コロメルの招待状なのだ。
 大会の開かれることは僕はまだちっとも知らなかった。が、ちょうどいい機会だ、行こう、と僕は心の中できめた。そして枕もとの小さな丸テーブルの上から、その日の昼来たまままだ封も切ってなかった、イギリスの無政府主義新聞『フリーダム』を取って見た。はたしてそれには大会のこと
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