た話を聞いて、どこもかもよく悪いことばかりが似るものだと感心した。
 共産党やC・G・T・Uが何かやれば、社会党やC・G・Tがサボる。そしてその共産党がまた、無政府党のやることとなると一々にサボる。
 僕がメーデーに捕まった時には、『ユマニテ』では一段あまりの記事を書いた。が、その翌日僕が日本の無政府主義者と分って以来は、裁判のことも追放のこともついに一字も書かない。まったくの黙殺だ。そして王党の『ラクション・フランセエズ』なんかになると、最初から最後まで、「例の殺人教唆の無政府主義者」云々で押し通していた。
 サボタージュにも、「安かろう悪かろう」の意味の消極的のものもあれば、「生産妨害」の意味の積極的のもある。
 最近の『東京朝日新聞』に、そのパリ特派員の某君の記事の中に、王党の一首領を暗殺したジェルメン・ベルトンのことを「例の政治狂の少女」と書いてあった。それくらいならまだいい。彼女は、フランスの資本家新聞では「淫売」であり、「ドイツに買われた売国奴」であり、また「警察の犬」でもある。
 そしてフランス無政府主義同盟の機関『ル・リベルテエル』は、ほとんど毎週、彼女の弁護のために発売禁止され、その署名人と筆者とはラ・サンテにほうりこまれている。

    十

 パリに着いた晩、夕飯を食いに、宿からそとへ出て見て驚いた。その辺はまるで浅草なのだ。しかも日本の浅草よりも、もっともっと下劣な浅草なのだ。
 貧民窟で、淫売窟で、そしてドンチャンドンチャンの見世物窟だ。軒なみに汚ないレストランとキャフェとホテルとがあって、人道には小舎がけの見世物と玉転がしや鉄砲やの屋台店が立ちならんでいる。そしてそれが五町も六町も七町も八町も続いているのだ。
 黒ん坊の野蛮人が戦争している看板があげてあって、その下に、からだじゅう真黒に塗った男や女や子供が真っ裸と言ってもいいような恰好をして、キイキイキャアキャア呼びながら槍だの刀だのを振り廻して見せている。その隣りは、「生きた人蜘蛛」という題で、顔だけが人間であとは蜘蛛の大きな絵看板がかかげてある。そしてその次には、玉転がし、文《ぶん》廻し、鉄砲、くじ引き、瓶釣り、その他あらゆるあてもの[#「あてもの」に傍点]の店がならんでいる。普通にものを買える店は一つもないのだ。そしてさらにまたその次には、ぐるぐる廻る大きな台の上に、玩弄品《おも
前へ 次へ
全80ページ中78ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
大杉 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング