まらない。僕なんぞも前にはずいぶんあばれたもんだ。それでも減食を五度暗室を三度食ってからは、もう大がいのことは叱られない。歌を歌おうと、寝ころんでいようと、何でも勝手気儘な振舞いができるようになった。」
 四十余りになるその男は、僕を何と思ったのか、しきりに説いて聞かせた。実際その男は減食の五度や六度や、暗室の三度や四度や、また五人十人の看守の寄ってたかっての蹴ったり打ったりには、平気で堪えて来れそうな男だった。からだもいいし、話しっぷりもしっかりしているし、いかにもきかぬ気らしいところも見えた。
 僕は例の強盗殺人君でずいぶんその我儘を通している囚人のあることは知っていた。しかしそれは死刑囚だからとばかり思っていた。死刑囚では、なおそのほかにも、その後そんなのを二、三人見た。が死刑囚でない囚人が、それだけの犠牲を払ってその自由をかち得ているということは、この話で初めて知った。
 そしてその後千葉で、初めて、そういう男に実際にぶつかった。今でもその名を覚えているが、渡辺何とかいう、僕と同じ罪名の官吏抗拒で最高限の四年喰っている男だった。
 この男とは、東京監獄でも同じ建物にいて、よく僕
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