置かれた。この何監というのはその建物の番号で中央から半星形に射出した四つの建物に、二階は一監から四監、下は五監から八監の名がついていた。四監は二階で八監はその下だ。そして僕はいつも運よく日当りのいい南側の室に置かれた。
この建物の南側に沿うて、そこから五間ばかり隔てて、女監へ行くタタキの廊下がある。毎日一度か二度か三度か、必ず十数名ずつの新入りがここを通って行く。なかなか意気な、きちんとした風のおかみさんらしいのもある。伊達巻姿や、時とすると縄帯姿の、すこぶるだらしのないのもある。その大部分はいわゆる道路妨の拘留囚だそうだ。この道路妨というものについてはまたあとで話しする。
この連中が廊下の向うからカランコロン、カランコロンと喧ましく足音を立ててやって来る。それが聞え出すと、八監や八監の南側の先生等は、そら来た! とばかり[#「とばかり」は底本では「どばかり」]、何事をさし置いても窓ぎわへ走って行く。
僕はいつも走って行って、ようやく眼のところが窓わくにとどくぐらいなのを、雑巾桶を踏台にして首さしのばして、額を鉄の冷たい格子に押しつけて、見た。そして、あの二番目のはよさそうだなとか、五番目のは何て風だとかいうようなことを、隣り近所の窓と批評し合った。時とすると、
「おい、三番目の姉さん、ちょいと顔をお見せよ。」などと呼ぶ奴もある。女どもの方でも、自分からちょっと編笠を持ちあげて、こっちを見るのか、自分の顔を見せるのか、する奴もある。時とすると、舌を出したり、赤んべをして見せたりする奴すらある。
僕はぼんやりとそれを見ていて、よく看守に怒鳴りつけられた。
たしか屋上演説事件の治安警察法違反の時と思う。例の通り警察から警視庁、警視庁から東京監獄へとつれて行かれて、まず例のシャモ箱の中に入れられた。もっともこれは男三郎君の時に話したような面会所のそばのではない。そんなのがあちこちにあるんだ。こんどは、連れて来られるとすぐ、所持品を調べられたり、着物を着換えさせたり、身分罪名人相などの例のカードを作られたりする、その間自分の番の来るのを待っている[#「待っている」は底本では「持っている」]、シャモ箱だ。
しばらくすると、背中合せのシャモ箱の方へも人がはいったような気はいがする。ぺちゃくちゃと女のらしい声がする。
「おい、うしろへ女が来たようだぜ。一つ話をして見
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