ことを知らなかった。
久しく主人と奴隷との社会にあった人類は、主人のない、奴隷のない社会を想像することができなかった。人の上の人の権威を排除して、われ自らわれを主宰することが、生の拡充の至上の手段であることに想い到らなかった。
彼等はただ主人を選んだ。主人の名を変えた。そしてついに根本の征服の事実そのものに斧を触れることをあえてしなかった。これが人類の歴史の最大誤謬である。
われわれはもうこの歴史の繰返しを終らねばならぬ。数千年数万年間のピルグリメエジは、すでにわれわれにこの繰返しの愚を教えた。われわれはこの繰返しを終るために、最後の絶大なる繰返しを行わねばならぬ。個人としての生の真の拡充のために、人類として生の真の拡充のために。
今や近代社会の征服事実は、ほとんどその絶頂に達した。征服階級それ自身も、中間階級も、また被征服階級も、いずれもこの事実の重さに堪えられなくなった。征服階級はその過大なるあるいは異常なる生の発展に苦悩し出して来た。被征服階級はその圧迫せられたる生の窒息に苦悩し出して来た。そして中間階級はまた、この両階級のいずれもの苦悩に襲われて来た。これが近代の生の
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