、何か大きな声を出して、その鎖の端をほおり投げた。するとその傍に、やっぱりからだ中鎖を巻きつけて立っている奴が、ずかずかとそいつのところへ行って、持っていた太い棍棒で、三つ四つ殴りつけた。近くにいたみんなはときの声をあげて、喜び叫んだ。前の奴は泣きながらまた鎖の端を拾い取って、小さな輪を造っては嵌《は》め、造っては嵌めしている。そしていつの間にか、そいつの涙も乾いてしまった。
またところどころには、やっぱりからだ中鎖を巻きつけた、しかしみんなに較べると多少風采のいい奴が立っていて、何だか蓄音器のような黄色な声を出して、のべつにしゃべり立てている。「鎖はわれわれを保護し、われわれを自由にする神聖なるものである、」というような意味のことを、難しい言葉や難しい理窟をならべて、述べ立てている。みんなは感心したふうで聴いている。
そしてこの広い野原のような工場の真ん中に、すばらしい立派ななりをした、多分はこの工場の主人一族とも思われる奴等が、ソファの上に横になって、葉巻か何かくゆらしている。その煙の輪が、時々職工の顔の前に、ふわりふわりと飛んで来て、あたりのみんなをいやというほどむせさせる。
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