ツで、ともかくも一とまず自由の身となりました。
 入獄中、同志諸君より寄せられた、温かき同情と、深き慰藉と、強き激励とは、私どもの終生忘るべからざるところであります。
 裁判は、たぶん本月中に右か左かの決定があることと思います。
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巣鴨から

   *
 堀保子宛・明治四十年六月十一日
 一昨日と昨日と今日と、これで三たび筆をとる。その理由は、あまり起居のことを詳しく書いては、かえって宅で心配するからという、典獄様のありがたい思召しで、書いては書き直し、書いては書き直し、したからである。
 二度目でもあるせいか、もう大ぶん獄中の生活に馴れて来た。日の暮れるのも、毎日のように短かくなるようだ。本月の末にでもなったら、まったく身体がアダプトしてしまうことと思う。心配するな。
 朝起きてから夜寝るまで、仕事はただ読書に耽るにある。午前中はアナーキズムとイタリア語との研究をやる。アナーキズムは、クロポトキンの『相互扶助』と、ルクリュの『進化と革命とアナーキズムの理想』というのを読み終った。今はクラーウの『アナーキズムの目的とその実行方法』というのを読んでいる。イタリア語は、文法
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