できぬかも知れんのか。まず何よりも摂生を願う。足下もできるだけの手を尽して看護なり何なり努めてくれ。ただ横田のかわりに僕は寒村を得た。彼は目今失意の境にある。よく慰めてやってくれ。
きのうの面会の時には、足下が何となく元気のないように見えたが、どこかからだが悪いのか。あるいはいろいろ奔走に疲れたのか。それとも種々なる重荷に弱り果てたのか。
僕は、足下のこんどの処置については少しの不足もない。むしろ心中大いに感謝している。本当によくやってくれた。もし足下がいなかったらどうなったのだろうと思う。
会うたびに予算の金額が減ってくるので、したがって家政のこともかえなければならんが、子供等の処置についてなお一言しよう。
伸を下宿生活さすのはずいぶん不経済だが、若宮のところへ仲間入りをさせてもらうことはできんか。あるいは兄のところなり山田のところなり、食料付で置いてもらうことはできんか。来年試験を受けるとしても、はたして及第するか否かは分らんのだから、この四月には早稲田へでもはいったらどうだろう。それができなければ、兄とでも相談して何か手軽な職業をさがしてやってくれ。
僕はずいぶんながい間会わんので、彼の性行については何とも言えぬが、足下と彼との間にはまだ何となく意志の疎通がないように思う。従来、足下は彼については、母からの悪口のみを聞いている。彼もまた同様のことと思う。僕は初めからこの間を心配していた。なお、お互いによく努めてくれ。僕は、たとえ彼が如何様であっても、僕のできるだけのことは尽してやる考えでいる。また彼としてはこの際、自ら進んで他の弟妹等の世話のやけないように努めるのがその務めだと思う。これらのことは渡辺弁護士をでも通じて、彼に理解させて置いてくれ。
もし春が誰か一人引受けるとなれば、松枝よりは菖蒲でも頼んだらどうだろう。松枝は僕等の手ででもいくらでも嫁に行先はある。
勇は工場へでも出るというなら、家で食わして、その得る金はすべて本人の自由にさせたらどうだろう。それでも勉強もできよう。また、ためる気ならそれもできよう。その上、僕等はなおできるだけの力を尽してその望みを果させてやろう。
進はまだ静岡にいるのか。これは早くきまりをつけてやってくれ。
僕等夫婦は、元来親類間に非常な不信用であった。したがって僕は、親類に本当に親切気があるなら、こんどなど
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