はちょうど『議論』の出る予定の頃だと思うが、広告のとれ具合はどうか。雑誌の種類も前のとは大ぶ違うし、それにあまり広告に向くものでもなし、よほど困難なことと察せられる。ただ、今までのお得意にせびりつくのだね。十二月の面会の時には是非雑誌を一部持って来て、せめては足下の働きぶりだけでも見せてくれ。
 英語はやはり続けてやっているか。先生をかえたのは惜しいことをした。足下なぞは自分で勉強する方法を知らんのだから、よほど先生がしっかりしていないと駄目だ。ともかくも僕のロシア語と競争にしっかりやろうじゃないか。僕もあの文典だけは終った。来週から先日差入れの本にとりかかる。
 幽月はいよいよ寒村と断って、公然秋水と一緒になったよし。僕はあの寒村のことだから煩悶をしなければいいがと心配していたが、案外平静なようなのでまずまず安心している。いつかも慰め顔にいろいろと問い尋ねる看守に、かえってフリイ・ラブ・セオリイなぞを説いて、こうなるのが当り前でしょうよと言ってカラカラと笑っていた。しかし例の爪は見てもゾッとするほどひどく噛みへらされてしまった。※[#始め二重括弧、1−2−54]寒村は爪を噛む癖があった※[#終わり二重括弧、1−2−55]さていよいよ公然となれば、いわゆる旧思想※[#始め二重括弧、1−2−54]秋水等はこう呼んでいたそうだ※[#終わり二重括弧、1−2−55]とかの人達はだまっている訳にも行くまい。いずれいろいろ喧しいことと思う。しかし足下なぞはいつかも言った通りあまり立ち入らんようにするがいい。
 横田は本当に可哀相なことをした。僕はあの男がついにその奇才を現すことなくして世を去ってしまったのがいかにも残念で堪らぬ。それに僕をもっともよく知っていたのは実に彼だった。僕は彼の訃を聞いて、あたかも僕の訃に接したような気がする。前の僕の手紙の文句は伝えてくれたことだろうね。
 次の書籍差入れを乞う。
 エス語散文集、ディヴェルサアショイ(エス語文集、前の手紙を見よ)、フンド・デル・ミゼロ、以上三冊合本。
 日本文、金井延著、社会経済学。福田徳蔵著、経済学研究。文芸全書(早稲田から近刊の筈)英文、言語学、生理学(いずれも理化科学叢書の)、科学と革命(平民科学叢書の)、ワイニフンド・スティブン著、フランス小説家。
 仏文、ラブリオラ著、唯物史観。ルボン著、群集心理学。
 独文
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