ずいの少ないのと叱られないようにと思って、一生懸命にやっているが、日に十六丈何尺というきまりのをようやく三丈ばかりしかできない。夜業がなくて、暗くなるとすぐ床につけるのと、日曜が丸っきり休みなのとが、はなはだありがたい。
六日に例の課長さん※[#始め二重括弧、1−2−54]今の監獄局長、当時の監獄課長谷田三郎君※[#終わり二重括弧、1−2−55]が来て、「きょう君の細君が本を持って来たから、差支えのないものだけ名を書いて置いた」という仰せだった。その本は受取った。これからは司法省の検閲を経る必要はない。直接ここへ持って来てくれ。至急送って貰いたい本は、
英文。ダーウィン航海記。ディーッゲンの哲学。ショーのイブセン主義神髄。クロのロシア文学。モルガンの古代社会。個人進化と社会進化。産業進化論。
独文。科学叢書。
露文。文学評論。
伊文。論理学。
古い本を宅下げするようにして置くから、近日中にとりに来てくれ。大ぶ多いからそのつもりで。本は五冊ずつ月に三度下げて貰える。
*
堀保子宛・明治四十三年十月十四日
八月に書いた手紙は不許になったが、九月に出したのは着いているのだろうね。足下の方からさらに便りがないので、少しも様子が分らない。この手紙の着く頃は、ちょうど足下が面会に来れる時に当るのだが、今はただそれのみを待っている。
先月の末であったか、湯にはいっていると「面会」と言って呼びに来た。まだはいったばかりで何処も洗いもしないのを大喜びに大急ぎに飛び出して行って見ると、思わざる渡辺弁護士だった。きのうその委任状に印をおして置いたが、もう事はすんでいるのだろうね。何だか話はよく分らなかったけれど、遅くなると取れんかも知れんとか言っていたようだったが、そんなことになっては大変だ。取れるものは早く取る方がいい。
前の手紙に胃腸を悪くしているなどと書いて置いたから定めて心配していることと思うが、その時にもちょっと言って置いたように、その後ははなはだ経過がいい。まだ一週に一度ぐらいは下るが、大した下り方ではない。痛みは全然なくなった。このぐらいの下痢なら、ちょうどここで毎週一度大掃除をやらすように、腹の中の大掃除をやるような気持がして、かえって小気味がいい。出るまでには是非治したいと思ってしきりに運動して養生している。
ことしは初夏以来雨ばかり降り続く
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