まったくおかしくなってこう呟いた。それも、そのときの千鶴子がすぐまたここへも来るのだと思うと、日本を好きで夢にも見たと云われているモネーの代表作の著想も、あるいは、今こうして見ているこの沼だと思っても、別に自分にとって不都合なことではないと、真面目に彼は考え込むのだった。実際もしモネーが云われるごとく、日本の睡蓮をいつも夢見たとするなら、今は亡いモネーの夢を身に灼きつけ、彼に代ってここまで秘かに運んで来たのかもしれぬ、とも思えたりした。
 間もなく千鶴子は裏門からいつもと違い和服姿で降りて来た。紫色のぱっちりした矢絣の膝のよく伸びた姿勢で、柘植の木の横から段を降りるのが沼の水面に映っていた。莟のまだ固い紫陽花の叢に指さきを触れ、小径を廻ってからよって来ると木椅子へ並んで腰かけた。
「このごろ外出はらくになりましたの。」千鶴子は額を一寸揉み彼を横眼で眺めた。いつの問にかひどく老成した風な、ゆったりとした微笑に矢代は気附き、千鶴子も長らくの気疲れがようやくほぐれて来たものと察せられた。彼は和服のよく似合うのを賞め、少し遅れて手紙の礼を述べてから、
「本当ですかね、お母さんのことなどあんなに
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