そうです。あなたより二船ほど後なんですよ。」
「じゃ、僕の方が兄貴なわけですね。宜敷く。」
 淋しそうな東野は自分の名刺を出そうとして財布の中を探し始めた。そこへ久慈と千鶴子が放射状の道の一角から現れた。
 久慈は、「待ったかね。」と云って矢代の傍へよって来ると、
「この人、アンリエットさん。」
 といきなり彼から千鶴子に紹介した。アンリエットと千鶴子は自然に見合って握手をした。どちらにしても敵意など起りようもないのが今の情態だったが、それにしても微妙な白けた瞬間の気持ちの加わろうとするのを矢代は感じ、すぐ傍の東野に久慈を紹介した。
「東野さんはあなたでしたか。」
 紹介したりされたりで急に足もとからばたばた鳥の立つような眼まぐるしい表情の配りだった久慈も、矢代とは違い東野にだけは自分の気持ちも通じそうに思われたらしく、突然彼の方に傾きよると、
「どうですか、パリの御感想は。僕は毎日、この矢代と喧嘩ばかりしてるんですよ、この人はひどい日本主義者でしてね。僕はどうしてもヨーロッパ主義より仕方がないと思うんですが、あなたはどちらですか。」
 こんな質問をいきなり初めてのものにするなどという
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